「地上に置くべき巨大レーダーを船に載せるのだから無理があります。当初の設計では、全長が210メートルで全幅が40メートルもありました。これはとんでもない形で、自衛隊の護衛艦はだいたい幅20メートルですから2倍も太っている。機動性に欠け敵からも狙われやすいから設計のやり直し、ということで小型化することになったが、どうやって小型化できるのか不思議です」
敵基地攻撃の対象も曖昧だ。相手国が実際に攻撃していなくても、攻撃に「着手」すれば、日本に対する武力攻撃が発生したと見做(みな)すことができるという考え方がある。政府見解を問われても、岸田氏は「安全保障の機微に触れる」として明確に答えようとしない。
■台湾海峡危機が参戦の引き金に
何をもって攻撃の「着手」と判断するのか。ジャーナリストの谷田邦一氏は「本当に攻撃の準備段階で反撃したら国際法違反の予防攻撃になってしまいます」と前置きしたうえでこう説明する。
「相手国が弾道ミサイルを撃ってきたら、在日米軍と自衛隊のレーダーがミサイルを探知し、数十秒程度でどこに着弾するかが割り出されます。日本の都市に着弾するとわかった瞬間が『着手』で、反撃のGOサインを出すタイミングです。これは放物線を描いて落下してくる弾道ミサイルに限った話で、巡航ミサイルや複雑な軌道で飛んでくるようなミサイルは最後までわかりません」
また、NSSは敵基地攻撃能力について、安倍政権で決められた武力行使の「新3要件」に基づくと定義する。すなわち、「日本への武力攻撃が発生、または日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」した場合、「存立危機事態」として集団的自衛権を行使する可能性があるのだ。谷田氏はこう予測する。
「例えば台湾の周辺海域で米艦が攻撃を受けたとき、米軍から相手の巡洋艦や駆逐艦をたたいてくれという要請があるかもしれない。そうなれば自衛隊がミサイルを撃ち込むという事態は起こり得ます」
米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が1月9日、中国の台湾侵攻を想定したシミュレーションの結果を公表した。ほとんどの場合で米軍は台湾防衛に成功するが、米軍や自衛隊側も甚大な被害が出ると想定している。米中戦争が起きれば、現実的に日本は否応なく戦闘に巻き込まれるだろう。前田氏がこう警告する。
「日本列島は大陸に向かって、北海道から沖縄まで2千キロ以上も弓なりに連なっている。米国にしてみれば、格好の防波堤です。日本へのミサイル攻撃が通常弾頭だとしても、原発に命中すれば核被害にさらされます。これ以上ない脆弱性を相手に見せながら、しかし、そのことには一切、口をつぐんでいます」
抑止どころか、戦争リスクを招き入れてしまったのではないか。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年2月10日号