どの変異株が、どの地域で流行しやすいのかも解明されていない。日本は現在、従来型から約9割が英国株に置き換わったとされている。南アフリカ株もブラジル株も国内に入ってきたが、流行には至らなかった。
気になるのは、ワクチン接種が進み、ロックダウンが緩和された英国でインド株感染者が2千人を超えるなど急拡大していることだ。今後、本格的にインド株へ置き換わるかは注視すべきだが、英国株とインド株が流行する土壌は日本と共通しているかもしれない。上医師が続ける。
「要注意なのは、感染の波が収束するタイミングで変異株の感染を拡大させてしまうことです。日本はこの春、第3波が収束するタイミングで英国株が入ってきて置き換わり、すぐに第4波となりました。ワクチン接種が遅れている中、インド株が日本の風土にマッチしてしまったら、次の冬の流行時に大爆発する最悪のシナリオもあり得る」
一刻も早く、できる限り多くのインド株感染者を見つけ出す必要があるが、厚生労働省や国立感染症研究所をはじめとする“感染症ムラ”の動きは相変わらず鈍い。
厚労省はインド株についての監視を強化するとの通知を5月14日付で都道府県などに出した。5月中にもインド株L452Rを見つけるPCR検査を、感染研が委託した民間検査機関などで実施。ウイルスゲノム解析も行うという。東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの井元清哉教授がこう懸念する。
「すでにインド株を検出する試薬は売られています。なぜ、明日からでも検査を開始すると言わないのか。検体をシーケンス解析(全ゲノム解析)すればL452Rを含むインド株なのか、他の変異株なのかも詳細に判定できる。これもすぐに始められることなのに、なぜこれほど時間がかかるのが理解できません」
ウイルスのゲノム解析は、新たな変異を見つけるためにも不可欠だ。感染研は昨年まで週300件だったシーケンス能力を今年2月から最大800件に増やしたが、大学や民間企業には1日で3千件のシーケンスができる大型機器がすでに導入されている。