落胆する夫に「彼らには有名になる気などさらさらなかった」と諭(さと)す女王(オリヴィア・コールマン)の言葉がさすがだった。彼らは責任感と謙虚さでスタッフの信頼を得ながら、職務を遂行したに過ぎない。それより若い宇宙飛行士の将来に思いを巡らせたらどう?
「彼らは元には戻れない。残りの人生を注目の中で生きていかねばならない。うかつに話せば、誰かを失望させてしまうかもしれないと怯(おび)えながらね。同情するべきなのよ」
イタリア・ローマ生まれで、アメリカの戦闘機パイロット出身のコリンズ飛行士は仲間を月面に送ったのち、司令船に残り月の周りを回った。21時間にわたって。
たったひとりの宇宙の旅。それはどのような時間だったのだろう。
『史上最も孤独な男』『忘れられた宇宙飛行士』と呼ばれることに対してコリンズは生前、「孤独と言われるが、そんなことはなかった」と答えている。「孤独」やら「忘れられた」とか、他人が考えた言葉では決して表現できない、極めて個人的な思いがあったに違いない。
「本当に地球が恋しい。妻に会いたい。ここは寂しく時のない宇宙飛行(“I miss the earth so much,I miss my wife/It’s lonely out in space/On such a timeless flight”)」
これはエルトン・ジョンの代表曲『ロケットマン』(バーニー・トーピン作詞)の一節である。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年6月4日号