日本がコロナ禍を理由に五輪中止を決めた場合、賠償請求されるのか否か。いずれにしろ、日本側が「不平等契約」を結んだつけが回ってきている。 AERA 2021年6月14日号から。
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中止か、強行か。
東京五輪開幕まで50日を切った今も、コロナ禍のなかで日本中が揺れている。朝日新聞が5月15、16日に実施した世論調査では、「再び延期」「中止」を望む声が合わせて83%に上った。5月5日に始まった中止を求めるオンライン署名は40万筆を超え、なお増え続けている。また、大会組織委員会は6月2日、約8万人の大会ボランティアのうち約1万人が辞退したことを明らかにした。
それでも、政府は開催に向けて突き進む。菅義偉首相は1日の参院厚生労働委員会で「国民の命と健康を守るのは私の責務だ。五輪を優先させることはない」などと述べたが、同日、ソフトボールのオーストラリア選手団が事前合宿地の群馬県太田市に入った。五輪本番に出場する海外選手団の来日が始まった。
元自民党国会議員秘書でコラムニストの尾藤克之さんは、菅首相の姿勢についてこう言う。
「五輪ができなければ、菅さんは首相でいられない。中止すれば、経済界からも党内の族議員からも突き上げられますし、遅きに失した今となっては『英断』と評価されることもないでしょう。もはや菅さんは引くに引けません。強行して、『運よく』感染拡大せずに成功することを願うしかなくなっています」
■緊急事態宣言でも開催
強行開催を主張するのは菅首相だけではない。大会主催者の国際オリンピック委員会(IOC)だ。ジョン・コーツ副会長は5月21日の記者会見で、「緊急事態宣言下でも五輪は開催される」と明言した。
このIOCと東京都、日本オリンピック委員会(JOC)、組織委は、「開催都市契約」を結んでいる。大会運営のいわば「基本法」と言えるものだ。スポーツ法を専門とする弁護士で早稲田大学スポーツ科学学術院の松本泰介准教授が解説する。
「開催契約は、大会を統括する国際団体とホスト側の当事者で、意思決定のルール、お金やリスク、役割の分担などを定めるものです。基本的にはどんな国際スポーツ大会でも当事者間で契約が結ばれ、それに基づいて大会が運営されます」