「西武園ゆうえんち」(埼玉県所沢市)のリニューアルは、まさにノスタルジー消費の象徴だ。
1950年に「東村山文化園」として開園して人気を集めたが、来場者は88年度の194万人をピークに減少傾向へ。2019年度は約37万人と最盛期の5分の1になった。このため総事業費100億円をかけて大規模改装に踏み切り、今年5月に全面開業した。
大怪獣「ゴジラ」をテーマにした企画や、手塚治虫氏の人気作品「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」のキャラクターが登場するエリア、昭和のレトロな雰囲気が漂う駄菓子屋や大衆食堂などが集まる「夕日の丘商店街」もある。
西武園ゆうえんちの広報担当者は「デジタル時代にあって、人が触れ合う場所をつくりたいと考えました。1960年代はまさに世話焼きな人が近所にいて人情を通わせていた。来園者に幸せな気持ちになってほしい」。
人が快く感じるのは脳内の「報酬系」と呼ばれる神経系が活性化するためで、快感物質ドーパミンが中心的な役割を果たす。それが、ノスタルジー消費によっても引き起こされるというのだ。
「懐かしい気持ちを味わったときにドーパミンが出ます。人間が未来を生きるために大事なことです。懐かしさを感じることが多い人は、過去の記憶がポジティブに変容されて優しい気持ちになれる」
早稲田大学人間科学学術院の杉森絵里子准教授はこう解説する。
実際、研究のなかで懐かしい食べ物の香りをかがせたり、懐かしい思い出を語らせたりしたところ、その人の気分が良くなったという。
「みんなで懐かしさを共有すると、社会的なつながりを強固に感じられて、さらにいい」(杉森さん)
懐かしい趣味を一人で楽しむのもいいが、同好の仲間で「わかる、わかる」と共感し合うと、いっそう快くなるそうだ。インスタグラムなどに投稿して、「いいね」がつくことでもそんな気分が得られるという。
だれにでも、夢中になった思い出などがあるはずだ。コロナ禍で行動が制限されているものの、改めてハマってみるのもいいかもしれない。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2021年6月18日号