試合終了後、不満の収まらないファンがなおも「関根、長嶋を出せ!」のヤジを飛ばした。すると、関根監督は顔色を変えて「うるせえなあ!」とスタンドに向かって一喝。コーチも選手も驚き、一瞬その場の空気が凍りつくほどの迫力だったという。

 別の試合では、内藤尚行がピンチを迎えたとき、関根監督がマウンドに来て、「何をやっているんだ」と顔は笑いながらも、足をグリグリ踏みつけたという話も伝わっている。

 また、大洋監督時代の82年5月29日の中日戦では、球審と三塁塁審がタッチプレーの明確なジャッジをすることなく、高木豊の本塁セーフをアウトに覆されたことに納得できず、選手全員を引き揚げさせ、試合再開に応じる条件として「審判が自分の非を認めるアナウンスをしてほしい」の要求を押し通している。

 優しそうに見えても、理不尽なことに対しては、きっちり筋を通す硬骨漢だった。人は見かけだけで判断してはいけないという好例である。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。