英国ではワクチン接種が進んでいて、16日までで成人の約8割が1度目を終え、約58%が2度目も完了している。そのため、17日の死者数は19人と、低い水準で推移している。しかし、日本では英国に比べてワクチン接種が遅れている。
「日本では、7月中旬の段階で2度の接種を終えている人は、おそらく全人口の20~25%程度。残りの約7割の国民の中で感染が広がり、多くの死者が出るなか、五輪が開催される可能性があります」(中原氏)
16日に厚労省の専門家会議の会合に提出された資料によると、7月23日に開幕する東京五輪を有観客で開催した場合、8月下旬までに東京都内の新規感染者数が1万人以上増える可能性があるという。デルタ株によるコロナ第5波は、五輪でさらに深刻化するということだ。
となると、ワクチン接種を一刻も早く進めたいところだが、残された時間は少ない。
日本国内で使用されているファイザー社製やモデルナ社製のワクチンは、どちらも3~4週間の間隔を空けて2度接種する必要がある。さらに、2度目の接種を終えてから約2週間後に予防効果が最大化する。逆算すると、五輪期間中までにワクチンの予防効果を得るには、6月末までに1度目の接種を終えることが望ましい。
だが、17日時点で1度目の接種を終えた人は、65歳以上の高齢者に限っても41%しか進んでいない。多くの国民は不安に怯えながら大会期間を過ごすことになりかねない。自治体によって接種のスピードに差があり、優先接種の対象ではないのに、ワクチンを打ち終えた一部の人々だけが“上級国民”として悠々と五輪を楽しむ……そんな構図は誰も望んでいないはずだ。前出の雨宮氏は言う。
「政治家は、こういった危機のときこそ『誰も見捨てない』という強いメッセージを発する必要がありますが、菅首相からそんな姿勢は見えません。五輪は、日本にある社会の不平等から目をそらせるために利用される。もはや平和の祭典ではありません」
(本誌・西岡千史、亀井洋志)
※週刊朝日 2021年7月2日号