さらに上へという向上心はもちろん大切なのですが、こういう時期だからこそ底辺を上げるボトムアップの練習だったり、故障をしないことだったり、「悪い練習をしない」ことが求められる、と思います。
6月17日まで豪州・アデレードで開かれていた豪州の五輪代表選考会の女子100メートル背泳ぎで、ケーリー・マキオンという19歳の選手が57秒45の世界新をマークしました。
彼女のコーチは陽気な人柄で、大会で会うといつも「ビールを飲みに行こう」と声をかけてくれます。大橋悠依の400メートル個人メドレーのレースの後、「おれは個人メドレーでは大橋の泳ぎが一番好きなんだ」と、わざわざ言いにきてくれたこともあります。
各国の代表選考会の記録を見ると、コロナ禍の中で苦労を重ね、工夫をこらしながら選手の力を伸ばしてきた、多くのコーチたちの顔が思い浮かびます。1年延期となった東京五輪のプールで再会を果たし、いろんな話ができることが、今から楽しみです。(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数
※週刊朝日 2021年7月2日号