ミニチュア写真家・見立て作家、田中達也。もくもくした白い雲を指さして、「ソフトクリームみたい」。誰しも一度は、子ども時代に空想したことがあるはずだ。田中達也は、そんな「見立て」の世界を、ミニチュア人形と日用品を使って現実世界に作り出す。思わず誰かと話したくなる驚きに満ちた作品は、物の構造を見抜く観察眼と幼少期から変わらぬ発想力から生み出されていた。
【写真】月に数回、100円ショップのダイソーなどに材料の買い出しに行く
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アトリエの隅から田中達也(たなかたつや)(39)が持ち出してきたのは、ミートソーススパゲティだった。レストランのショーケースなどに飾られる樹脂製の食品サンプルだ。空中で静止した銀のフォークから滝のように麺が垂れ下がり、皿の上で山盛りになっている。
田中は、半畳ほどの広さの撮影台にサンプルを置くと、麺を皿から外してオレンジ色の平皿に移し替えた。撮影したときの色の映え方や大きさのバランスを考えているという。
「これは“何”になるんですか?」。そう尋ねると、「バンジージャンプ」と即答した。
「麺から突き出たフォークの柄が、バンジージャンプの飛び込み台みたいに見えるなって」
田中は、恐らく世界で唯一の「見立て作家」だ。見立ては、芸術表現のひとつで、ある物をなぞらえて別の物に見せることをいう。
例えば、ブロッコリーの下に小さなベンチを置けば「樹木」に、麦わら帽子を被った少年が見上げるポップコーンの山は「入道雲」、ピカピカ光るCDの盤面は「アイススケートリンク」といった具合に、日用品をミニチュア人形と組み合わせて、別の何かに見せていく。
今回のスパゲティを使った作品でも、フォークの柄に、麺に似た1本の白い針金を巻き付けて垂らし、その先に全長わずか1センチ程度のミニチュア人形を固定することで、スパゲティの麺を「バンジージャンプの命綱」に見立てた。
だが、これで完成ではない。田中は撮影台の下の引き出しを開けると「自転車に乗る男」のミニチュアを取り出した。人形を自転車から取り外し、フォークの柄から頭が少しはみ出るように前倒しに置く。途端に、自転車をこぐ男が「高台から恐々と下を覗(のぞ)く人」に見えてくるから面白い。さらに皿の周りに樹木や鳥のミニチュアを配置して「高さ」を演出する。おいしそうなスパゲティが、もはや森にそびえ立つ塔にしか見えない。