日経はFT紙を買収したことで、その紙面の内容が大きく変わった。何よりも「時間経過に耐えうる」コンテンツへの脱皮を果たしたと私は考えている。
日経電子版に夕方6時に流されるイブニングスクープは「スクープ」と言いながら、実は数カ月後読んでも古びない、背景をえぐり取って読ませる記事が多い。
これは、雑報は通信社にまかせて、その記者でなければ持ち得ない視点で書く記事を載せてきたFT紙から学んだのだろう。
しかし、アレックス・バーカーの過去の記事を読んでみて、今の日経にはないもうひとつのジャーナリズムで重要な資質を、FT紙は持っていることに気がついた。
それは「スキャンダリズム」である。
電通の三倍の売上をもつWPPという世界最大の広告代理店の創業者が、メイフェアの売春宿に通っていた、ということもFT紙は暴露したりしているのだ。
以下、次号。
下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。
※週刊朝日 2022年12月16日号