日経はFT紙を買収したことで、その紙面の内容が大きく変わった。何よりも「時間経過に耐えうる」コンテンツへの脱皮を果たしたと私は考えている。

 日経電子版に夕方6時に流されるイブニングスクープは「スクープ」と言いながら、実は数カ月後読んでも古びない、背景をえぐり取って読ませる記事が多い。

 これは、雑報は通信社にまかせて、その記者でなければ持ち得ない視点で書く記事を載せてきたFT紙から学んだのだろう。

 しかし、アレックス・バーカーの過去の記事を読んでみて、今の日経にはないもうひとつのジャーナリズムで重要な資質を、FT紙は持っていることに気がついた。

それは「スキャンダリズム」である。

 電通の三倍の売上をもつWPPという世界最大の広告代理店の創業者が、メイフェアの売春宿に通っていた、ということもFT紙は暴露したりしているのだ。

 以下、次号。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2022年12月16日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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