フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のブリュッセル支局は、FT紙の中で、ワシントン支局と並ぶ大きな規模の支局だ。
といっても、支局の人数は七人ほど。この七人が、国際機関の集まるこの都市で、精力的に取材を続ける。
2011年8月から2019年8月まで8年あまりにわたってこのブリュッセル支局にいたアレックス・バーカー(現グローバル・メディア・エディター)は、ブリュッセルほどFT紙がFT紙らしさを発揮できる支局はない、と考えている。
ブリュッセルにはEUやNATOの本部があり、世界中の新聞社が支局をもっている。それぞれの新聞は、それが発行される国を背景にして記事を書く。たとえば、日本経済新聞の社説の中で、「日本の国益」という言葉を使っている記事を検索してみると、2022年だけでも8件の社説が見つかる。
ところが、FT紙は違うのだ。英国で発行されているこの新聞は、英エコノミスト紙と同様に、グローバルに読者も持っている。
「だからFT紙は、英国のレンズで欧州を見るということはしていないのです」(アレックス・バーカー)
今週と来週は、日本経済新聞が2015年に買収したFT紙のメディア担当記者アレックス・バーカーとのインタビューから考える「FT紙の流儀」。
アレックスが、ブリュッセルに赴任をしてきた2011年は欧州危機たけなわの年だった。国家が破産の危機に瀕するというギリシャ危機がまずおこり、それはキプロス、アイルランドとつづき、ポルトガル、イタリアも債務危機でその瀬戸際までおいつめられた。ドイツやフランスの新聞社もこれらの危機をカバーした。しかし、これらの国の新聞社は、自国にとっての国益という観点から常に物事を見ていた。ところが、FT紙は違ったのだという。
「われわれは、国家と企業社会の間の関係性を取材するのです。それは、ビジネスをしている人たちにとってとても重要な情報になります。そしてブリュッセルほど欧州において、国家と企業の関係性を取材するのに適した都市はない」