アレックス・バーカー。11月半ばに、日本のメディアについて調査するために来日。上智大学近くの焼鳥屋「ただ野」で。
アレックス・バーカー。11月半ばに、日本のメディアについて調査するために来日。上智大学近くの焼鳥屋「ただ野」で。
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 フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のブリュッセル支局は、FT紙の中で、ワシントン支局と並ぶ大きな規模の支局だ。

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 といっても、支局の人数は七人ほど。この七人が、国際機関の集まるこの都市で、精力的に取材を続ける。

 2011年8月から2019年8月まで8年あまりにわたってこのブリュッセル支局にいたアレックス・バーカー(現グローバル・メディア・エディター)は、ブリュッセルほどFT紙がFT紙らしさを発揮できる支局はない、と考えている。

 ブリュッセルにはEUやNATOの本部があり、世界中の新聞社が支局をもっている。それぞれの新聞は、それが発行される国を背景にして記事を書く。たとえば、日本経済新聞の社説の中で、「日本の国益」という言葉を使っている記事を検索してみると、2022年だけでも8件の社説が見つかる。

 ところが、FT紙は違うのだ。英国で発行されているこの新聞は、英エコノミスト紙と同様に、グローバルに読者も持っている。

「だからFT紙は、英国のレンズで欧州を見るということはしていないのです」(アレックス・バーカー)

 今週と来週は、日本経済新聞が2015年に買収したFT紙のメディア担当記者アレックス・バーカーとのインタビューから考える「FT紙の流儀」。

 アレックスが、ブリュッセルに赴任をしてきた2011年は欧州危機たけなわの年だった。国家が破産の危機に瀕するというギリシャ危機がまずおこり、それはキプロス、アイルランドとつづき、ポルトガル、イタリアも債務危機でその瀬戸際までおいつめられた。ドイツやフランスの新聞社もこれらの危機をカバーした。しかし、これらの国の新聞社は、自国にとっての国益という観点から常に物事を見ていた。ところが、FT紙は違ったのだという。

「われわれは、国家と企業社会の間の関係性を取材するのです。それは、ビジネスをしている人たちにとってとても重要な情報になります。そしてブリュッセルほど欧州において、国家と企業の関係性を取材するのに適した都市はない」

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。2024年6月17日に新刊『がん征服』(新潮社)を発売予定。元上智大新聞学科非常勤講師。

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