患者さんを壊れた“機械”だとしか見ていなかったのです。私にはそれを“修理”する腕があるという「上から目線」で患者さんと接していました。かつて私が知る「話をしない、笑顔を見せない医者」と大して変わらなかったと言えます。

 幸いなことに、その医局に医者としての「心技体」を備えたすぐれた先輩がいました。そのS先生の影響は甚大でした。

 心とは患者さんに寄り添う心。技とは治療技術。体とは、いざというときにどこまでも治療を続ける体力、気力です。

 最近になって私は、医療の本質とは、治したり癒(いや)したりすることではなく、治療者と患者が寄り添うことだと思うようになっています。

 昔よりも心技体を備えた医者が増えてきているのは間違いないことだと思います。特に心の部分は昔とは大きく変わりました。技の部分も進歩しています。体はチーム医療をするようになり、ひとりだけの力に頼らないようになりました。

 昔よりも医者は随分、付き合いやすくなってきているのです。この人なら寄り添えるという医師に出会ったら、患者さんの側からも心を開いてください。きっと素晴らしい患者と医師の関係が生まれると思います。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年7月16日号

暮らしとモノ班 for promotion
「最後の国鉄特急形」 381系や185系も!2024年引退・近々引退しそうな鉄道をプラレールで!