帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「医者との付き合い方」。

*  *  *

【寄り添う】ポイント
(1)『養生訓』では「医者は選ぶべきだ」と説いている
(2)私もかつては上から目線で患者さんと接していた
(3)昔よりも医者は随分、付き合いやすくなってきた

 貝原益軒は『養生訓』のなかに「択医」という項目をわざわざ設けて「医者は選ぶべきだ」と説いています。しかも、良い医者(君子医)と悪い医者(小人医)をはっきり区別しています。「君子医は患者さんのために働く」「小人医は自分のために医業を行う」というのです。そして、医者を選ぶためには医術のおおまかなところを知っておく必要があると述べています。それは確かに大事ですね。今の時代は容易に医学情報を得られますから、患者さんもすべて医者任せではなく、自分の病気について知っておくほうがいいでしょう。

 このように『養生訓』には医者選びについては書いてあるのですが、医者との付き合い方には触れていません。

 私は中学生ぐらいまでは、よく風邪をひいて医者の世話になりました。近くの医院に行くのですが、待合室から診察室に入ると、いきなり大きな看板があります。そこにはなんと「先生に話しかけないで下さい」と書かれているのです。当時はこれを誰も不思議に思いませんでした。医師と患者の関係は言葉を交わすものではなかったのです。この先生の笑顔は見たことがありません。奥さんは美人で愛想がいいのに、対照的なのです。

 私が医師になったのは、1962年。一介の町医者になるつもりが、成り行きで外科の医局に入ってしまい、まずは手術の“名手”になることを目指しました。正直に言って、いかに良い手術をするかが最大の関心事で、いかに良い医者になるかは二の次でした。

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