タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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ジェンダー平等だSDGsだとうるさいご時世、お役所が女性の数を増やせというから、うちも話題になりそうな女性を起用しよう。でもうちとしては「女性活躍やってますよ」というアリバイが欲しいだけで、別に本気で女性に仕事してほしいわけじゃない。勘違いしてあれこれ意見なんかされたら迷惑だ。会議では大人しく座っていればいい。なんで女の自分がこんなポジションに座らせてもらえるのか、ちゃーんとわきまえてもらわないと……。
結局それが、ラグビー界の本音だったのでしょう。日本ラグビーフットボール協会の理事だった谷口真由美さんが、6月に理事を退任、さらにラグビー新リーグの役職からも完全に退くことになりました。実質的な「谷口外し」、報復人事とも思える措置です。
今は女性の社外取締役を増やそうと企業が必死になって人探しをしています。女性の起用が遅れている放送局でもこのところ少しずつ女性局長が増えてきました。幹部への女性登用が増えるのは、一歩前進です。
でも、ただの株主向けの数合わせ起用や、主要部門は相変わらず男性ばかりのドーナツ型女性起用では、本当の意味で多様性を重んじる組織とは言えません。女性起用の動きが進むにつれ、「女は、男の土俵の周縁でニコニコしていればいい。本気で男の縄張りに手を突っ込んだら許さないぞ」という本音が見えてきました。女性の数だけを見るのではなく、この組織は本当に脱・オールドボーイズクラブをやろうとしているのかを、見極めなくてはなりません。
谷口さんの退任は「見せしめ」として女性の口を塞ぐ措置と言えるでしょう。今、各所で責任ある地位にある女性たちは、きっと内心不安なはずです。臆せずに発言を続けてほしいですし、周囲も社会も“わきまえない”女性たちを本気で支えていきましょう。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年7月19日号