三重県在住の大西幸次さん(65)は、自身の肺がんの闘病体験を伝えることで、同じくがんと闘う人々を励ましたいと考えている。
「肺がんの告知を受けたのが51歳のとき。翌月から抗がん剤治療を始めたのですが、当時はがん患者の相談窓口もなく、治療を続けて本当に良くなるのか確信が持てず不安だった。だから、自分のようにがん治療を乗り越えた人間がいることをオープンにするだけでも、少しは役に立てるかなと思ったのが始まりです」
寛解後、大西さんは12年に「三重肺がん患者の会」を設立。患者同士の交流の場づくりを行うと同時に、17年からは三重県がん相談支援センターの相談員として、月に10日、電話相談や面談に応じている。
「相談内容は、治療方法や患者と家族のメンタルケアが多いですね。がんって、発生部位だけでなく、同じ肺がんでも遺伝子変異の有無で治療の仕方がまるで変わってくる。他の人と苦しさを共有できない、孤独との闘いでもあるんです。だから、自分と同じ治療を受けている人に会って話すだけでも、すごく心の支えになるんですよ」
大西さんは、19年にがんが再発。現在も闘病中だ。「しんどくて、正直やめようかなと思うときもある(笑)」が、「医療は着実に進歩していて、薬剤の効果も10年前とは雲泥の差。がん治療はつらく苦しいものというマイナスイメージだけにとらわれないでほしい」と話す。
「患者会に来て、最初は泣きながら話していた人が、帰るときは笑顔になっているのを何度も見てきた。そんなときはやっていてよかったなと思います」
神戸松蔭女子学院大学教授で、25万部超のベストセラー『定年後』(中公新書)や『定年後の居場所』(朝日新書)の著者である楠木新さんは「定年後も居場所がある人は、外に見つけるのではなく、自分の中から“抜き出している”のが特徴」だと指摘する(下の表)。
【自分から居場所を「抜き出す」3つのポイント】(楠木さんへの取材を基に作成)
1.やり残したことを探す
小説や漫画、バンド演奏、そのほかに興味ある学びなど、若いころに「やり残したこと」を再び始める。