

今、中国の若者の支持を集めている「●(=身に尚)平(タンピン)族(寝そべり族)」。仕事や結婚などに積極的でなく、物欲を持たない若者を指す言葉で、SNSをきっかけに話題になった。一方で、中国社会での仲間内の競争にすり減っていく人を指す「内巻」という言葉も登場。AERA 2021年7月26日号では、こうした言葉が定着し始めた中国の現状を取材した。
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競争に疲れた人びとが「寝そべり族」を選ぶというのが、中国では一般的な理解だ。ただその一方で、「寝そべり族」という生き方を選択できることを、経済的ゆとりに伴う社会生活の多様化だとする見方もある。
中国南部・福建省の男性(22)は昨年夏に就職した衣服店をわずか1カ月でやめた。40代のオーナー夫婦は「がんばれ、がんばれ」と従業員に努力をせがむ。先輩従業員同士は売り上げのために競い合って努力していたが、頑張ったからといって給与が上がっている様子はなかった。
「がんばっても得られるものはなく、むしろ失うものが多いように感じた」(男性)
男性は早々に退職を決めた。両親が賃貸用の不動産を所有しており、今後も最低限の衣食住に不安はない。男性はもともと絵を描くのが好きで、インターネットで個人や企業の依頼を受けて報酬をもらっている。額は多くないが、小遣いとしては十分だ。
そうした仕事もない日には、自然に目が覚めるまでベッドで眠る。圧力とは無縁だ。結婚や子どもは「自分には必要ない」と割り切っている。
「目標に向かって奮闘する『内巻』の人たちは確かに社会に貢献している。『寝そべり族』は社会に貢献はしていないけど、『内巻』の人よりも自分が好きなことを大事にしている。人にはそれぞれの選択がある、結局はそれだけのことだと思う」(同)
■社会生活の多様化の一方 中国社会は冷めた反応
「寝そべり族」が流行する現象を、中国人民大学で社会学を研究する劉少傑教授はこう言う。
「市場経済による発展がもたらした競争が、『寝そべり』が普遍化した理由の一つではある。だが、それだけでは説明が不十分だ」