2020年、シェフ・小林圭はフランスで日本人初のミシュラン三つ星を獲得する。15歳で料理の道に入り、1999年に渡仏。名店「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」などで働きながら、自宅でも料理を作り、勉強し、ジャーナリストに食べてもらい感想を聞いた。小林にとって、三つ星獲得はスタートラインに過ぎない。自分のやるべきことは変わらない。自分の料理の世界観をとことん追求していく。
* * *
それはまさしく歴史的快挙だった。
2020年1月27日、フランス・パリで行われた「ミシュラン2020フランス版」の授賞式で、新たな三つ星レストランとして、パリ1区にある「Restaurant KEI」のオーナーシェフ小林圭(こばやしけい)(43)の名前が読み上げられたのだ。「風味の調和の名手。構成が正確で綿密、美を追究している」と称賛された。120年に及ぶ「ミシュラン」史上、日本人いやアジア人が最高評価の三つ星を獲得したのはこれが初めてのことだった。
2017年に二つ星を獲得したとき、小林は、ミシュランのトップに、「自分はすぐに三つ星を獲(と)りたい。どうすればいいのか」と尋ねている。ミシュラン側は、まずこう小林を諭したという。
「フランス人で毎年100人の中に入り続けることがどれだけ難しいか、君にわかるか。君は、今年100人の中に入った。それを維持することがどれだけ難しいか、それだけの自覚を持って、責任感を持って仕事に励んでもらいたい」
そして、小林の質問にはこう答えた。
「すべての皿を世界でも通じる皿にしなさい」
「KEI」のメニューは、アミューズからデザートまで全10品から12品で構成されている。その一品一品すべてを世界レベルのものにせよ、という指摘だった。
その後も、「ニョッキをつくったなら自分は世界一のニョッキをつくる」という気持ちでひたすら皿と向き合い続けた日本人は、わずか3年で三つ星30人に仲間入りしたというわけだった。