また、残念ながら今回の五輪は、コロナにより、これまで以上に開催「賛成」と「反対」で社会が二分されてしまいました。
しかし本来は、双方ともにあらゆる考え方があります。普段はスポーツが大好きで五輪を心から楽しみたいからこそ、今の社会状況に不安が消えず賛成できないという人、限られた情報をなるべく前向きにとらえ、応援の気持ちを盛り上げようとする人。私もテレビ番組に出演したり取材を受けたりしたときには、その微妙な気持ちを真剣に答えたつもりです。
しかし、今日までの報道ではそれぞれが抱える繊細な思いがあまり正しく、建設的にくみ取られず、「賛成」と「反対」の二項対立になっているものが少なくありません。「人間をケンカさせたいんですか?」と聞きたくなるような煽り方のものもありました。大会が始まり、メディアも五輪一色になりますが、報道は受け取る先の社会や人々のことを想像し、伝え、育むものであってほしいと思います。
個人的な思いを言えば、大会が始まったからにはアスリートには全力で頑張ってほしい。主催側には「本来は五輪が楽しみなのに」という人たちにこの大会の意味を見せ、伝えていただきたい。そして私自身も、スポーツがこれからの人や社会を照らす存在であり、少しでもそのことを未来に伝えられる大会になるように願いつつ、できることをしていきたいと思います。
(構成/編集部・川口穣)
※AERA 2021年8月2日号