接種は、住んでいる場所や職場で差が出ている。そういう状況の中で「打った、打った」と語るのは、品のいい振る舞いとは言えない。お二人はそう思ったのだろうと勝手に拝察した。それが普通の国民の感情だからだ。そして、こう思った。お二人の行動基準は「国民の普通の感覚」。そのことを、コロナ禍と五輪がはっきり見せてくれた、と。
7月20日、宮内庁は陛下の開会式出席を発表した。開会式の3日前のことで、雅子さまは同席しないとのことだった。
22日に陛下はバッハ会長らIOC関係者と面会した。23日にはジル・バイデン米大統領夫人や各国首脳らと面会した。続いた面会はいずれも陛下だけの臨席だった。宮内庁は「各国首脳らに合わせてのこと」という趣旨の説明をしていたが、お二人の意志ではないかと思う。
昨年4月、感染症対策専門家会議の尾身茂副座長(当時)を招いて以来、お二人はいつも並んで進講を受けてきた。コロナ禍について初めて国民に語りかけた今年1月1日のビデオメッセージも、お二人一緒だった。五輪にあたっての面会や開会式もそうすることはできたはずだが、しなかった。陛下単独という形でコロナ禍での五輪であることを示したのだと思う。
7月22日と23日、陛下は英語でお言葉を述べている。2日とも共通していた言葉がある。最初から2番目の文章の「現在、世界各国は、新型コロナウイルス感染拡大という大変に厳しい試練に直面しています」と、最後の「皆様と共に全てのアスリートのご健闘を祈ります」。
懸念と奨励。お気持ちが率直に表現されている。陛下と元外交官の雅子さま、お二人が練った文章ではないだろうか。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2021年8月2日号