東京オリンピックの開会式で、大会名誉総裁を務める天皇陛下は開会宣言を行った/7月23日夜、東京・国立競技場で (c)朝日新聞社
東京オリンピックの開会式で、大会名誉総裁を務める天皇陛下は開会宣言を行った/7月23日夜、東京・国立競技場で (c)朝日新聞社
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 7月23日夜、東京五輪の開会式に天皇陛下は一人で出席し、開会宣言を行った。世界が新型コロナウイルスの脅威と向き合う中、込められた思いとメッセージを読み解く。AERA2021年8月2日号から。

【写真】「軽すぎる五輪」が始まったのはこの瞬間から

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「私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します」

 天皇陛下は7月23日、開会式でこう宣言した。五輪憲章が定めたcelebratingという言葉を「祝う」でなく「記念する」としたことが注目された。陛下には、既定の道だったように思う。

 選手はリスペクトする。が、コロナ禍での五輪開催は憂慮している。陛下のそういう思いが要所要所で伝わってきたのだ。始まりは6月24日、宮内庁の西村泰彦長官の定例会見だった。開会式まで1カ月というタイミングで、「五輪開催が感染拡大につながらないか、(陛下が)ご懸念されていると拝察している」と長官が発言した。

■国民感情を共有する

 陛下の思いを、「拝察」にくるんで国民に伝えた──。そういう理解が広がった1週間後、宮内庁が発表したのが、「7月1日に陛下と雅子さまが、日本オリンピック委員会と日本パラリンピック委員会に金一封を贈った」というニュースだった。「日本選手団を奨励するため」ということだった。選手は奨励する、五輪の運営は懸念する。それがお二人の思いなのだと伝わる実に絶妙なメッセージと感じいった。

 五輪開催について「国論が二分されている」と言われる。だが、分かれているのは運営側への不信の濃淡ではないだろうか。選手は応援したい。そこまでは皆、同じ。コロナ禍での運営への不安。そこも同じ。その先の不信の濃淡が違う。

 そう思うと、「ご懸念→奨励」とは、ごく普通にある国民の感情そのものだ。お二人は、それを共有している。絶妙にそれが伝わってきた。そしてその5日後、また絶妙な出来事があった。

■英語で「懸念と奨励」

 7月6日、「天皇陛下が新型コロナウイルスのワクチンを接種した」と宮内庁が発表した。が、雅子さまの接種についての発表はなかったのだ。当初は陛下の接種も公表しない方針だったが、「国民の象徴である陛下については公表するのが適当」と判断し、陛下の了解を得た上で発表したという。

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