次に印象に残ったのは、森山未來さんが登場した場面。コロナ禍で亡くなった方やミュンヘン五輪で亡くなったイスラエル選手団に対して捧げた鎮魂の舞踏でした。森山さんは今年6~7月に上演された舞台「未練の幽霊と怪物」で、新国立競技場の設計者として脚光を浴び、後に撤回された建築家、故ザハ・ハディド氏の霊を演じています。また彼が出演した大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」は、政治家がパフォーマンスの道具として五輪を利用することを批判し、スポーツビジネスとして過度に膨れ上がる現在の五輪のあり方にも厳しい視線を送っているような作品でした。そんな彼のシーンは様々な方向から語るべき意味や価値のあるものだったと思います。

 三つ目は、各国の選手たちの入場行進です。先頭のギリシャに続いて2番目に入場したのは、戦乱が続くアフガニスタンや内戦下のシリアなど、11カ国出身の29人で結成された難民選手団でした。

 その一方で、日本が難民(認定申請者)に対して強硬な態度をとっていることは知っておく必要があるでしょう。五輪を安心安全に開催するという名目で外国人取り締まりが強化され、入管の収容所に長期間拘束されている人もいます。入管施設で命を落としたスリランカ人女性のことは大きく報じられましたが、この死亡事件と五輪は無関係とは言えないと考えてよいと思います。

 私は心から難民選手団の活躍を願っていますが、「努力をして心清くスポーツに励む若者=難民」というイメージが固定化されないことを切に願います。

(構成/編集部・藤井直樹)

AERA 2021年8月2日号

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