直前まで様々な問題が噴出していた東京五輪の開会式。当日は波乱なく終わったが、この式典を映画監督の青山真也さんはどう見たのか。AERA 2021年8月2日号でインタビューした。
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2014年から3年間にわたり、国立競技場の建て替えによって移転を強いられた都営霞ケ丘アパートの住人の生活を撮り続けました。大切なコミュニティーを引き裂かれ、命がけで立ち退いた高齢者がいる中で五輪開催が強行されたことに、今も強い疑問を持っています。
正直に言えば、開会式も競技も見たくない。でも、現に様々な問題が起こっていて、これからも問題が起こるかもしれないこの東京五輪を、最後まで見届ける必要があるのではないかと思い直しました。
私の心にとくに引っかかった場面が三つあります。
まず、もっとも目と心を奪われたのは、聖火台に聖火をともす最後の場面です。吉田沙保里さんと野村忠宏さんが競技場内に聖火を持ち込み、長嶋茂雄さん、王貞治さん、松井秀喜さんに渡す。そして医療従事者、パラトライアスロンの土田和歌子選手、被災地の子どもたちにつながれ、最後のランナーとなったのは大坂なおみ選手でした。
BLMの問題に言及したり、スポーツ選手のメンタルケアに配慮すべきだというメッセージを発信したりしてきた大坂選手。非常にいい人選だったと思います。でも同時に、この場面だけでダイバーシティーを語ろうとしているようにも見えて、複雑な思いになりました。
■人選が象徴する矛盾
選手入場の際に「ドラゴンクエスト」のテーマ曲が演奏されました。作曲したすぎやまこういち氏は、LGBTの人たちに対する差別的な主張をした杉田水脈議員に共感するコメントをした人物です。「多様性を認めよう」「心を一つに」と言い、直前に小山田圭吾、小林賢太郎の両氏を外しながらも、なぜ彼の曲を採用したのでしょうか。出場選手の中にもLGBTの人はいますし、この世界で生きるすべての人に対して開かれた大会であるべきです。