「推進力」について東島さんは腕のかきに注目する。池江は手を入水すると、ひじを高く保ってかき始める。世界のトップに共通する「ハイエルボー」というひじの使い方で、手とひじと肩が「への字」の形になって、水を漏らさず大きくキャッチすることができる。
一方、元日本水連広報委員の望月秀記さんは、池江の「手のひら」の使い方に焦点を当てる。
池江の唯一の弱点は「パワーがないこと」だという。しかし、水の抵抗を減らす泳ぎで、力のある外国選手と互角に戦うことができている。
「今はレース使用が禁止されている『高速水着』の多くは浮きやすい素材が使われていた。池江は高速水着を着なくても、水面で高いポジションを取ることができる」
なぜ、水によく浮く泳ぎができるのか?
「池江は水をかくときの手のひらの使い方が抜群にうまい。手のひらで水を押さえるようにして水中で高いポジションを保っている。水をとらえる技術と姿勢がぶれないところは、1992年バルセロナ、96年アトランタの両五輪で男子自由形短距離連続2冠のアレクサンドル・ポポフ(ロシア)との共通点を感じます」
筋肉のよろいをつけた米国勢のパワーに対抗し、世界一を守り続けたポポフ。池江の「奇跡の復活」も力に頼らない技術に支えられていた。(本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2021年8月6日号