金日成氏も自ら提案しながら、国交正常化の道は険しいと感じていたと思う。帰国するときにお別れの挨拶で「金丸先生、これで同じ船に乗りましたね。しかし、これは泥船かもしれない」と語っていたのが象徴的でした。父は92年の東京佐川急便事件で議員辞職したため、北朝鮮との関係は途絶えました。私も2002年の小泉純一郎首相(当時)の訪朝前に北朝鮮側から招待されるまで、10年間の空白期間ができました。

 多くの日本国民にとって、北朝鮮は非常に理解しにくい国でしょう。また、何をしでかすかわからない国でもあることは確かです。だからこそ、国際社会の中で孤立させてはならない。常に、北朝鮮を国際社会の表舞台に引っ張り出す努力をするべきです。そのためには、やはり日朝の国交正常化が必要です。

孫崎:ところが、日本は米国の対北朝鮮政策に完全に追随してしまっています。米国はソ連崩壊後、北朝鮮、イラン、イラクを新たな脅威として位置づけ、場合によっては軍事的に介入することも辞さないというスタンスを取ってきました。米国の陣営にある同盟国に対し、北朝鮮と独自に和解の道を模索することなど絶対に許さなかった。

 米国のこの基本戦略を変えたのが、トランプ前大統領でした。3度のトップ会談を実現させ、金正恩氏と親交を深めた。結果的には頓挫しましたが、米朝間で平和条約が結ばれる可能性もあったと思います。

金丸:トランプ氏は米国内の対北朝鮮強硬派から批判されましたが、米朝首脳会談は歴史的一大事でした。残念ながら朝鮮戦争の終結宣言、平和条約の締結にまでは至りませんでしたが、戦争前夜のような状態から一変し、平和ムードになった。その事実だけを見ても、私は対話の重要性というものを改めて認識させられました。

木村:米朝首脳会談で慌てたのか、当時、首相だった安倍氏が今度は自分の番とばかりに「前提条件なしで金正恩氏と向き合う」と言いだした。それまでは「拉致問題の解決なくして、日朝間の国交正常化はない」と言い続けてきました。言動が矛盾だらけで、ご都合主義でしかありません。

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