02年の日朝平壌宣言では、「拉致」という文言が一言も書かれていません。拉致問題については「日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとる」との文面が該当します。小泉さんも北朝鮮側の発表を認めて宣言にサインしたのです。ですから、菅さんも平壌宣言の原点に戻ってやり直すほかないと思います。

木村:いま拉致問題に言及しないで対話に応じれば、メディアや世論から激しいバッシングを受けることになるでしょう。国会議員も北朝鮮と関わることに及び腰になってしまいます。

金丸:北朝鮮の高官にもよく言うんです。いま日本の政治家が拉致問題に触れずに北朝鮮に関わろうとしたら、政治生命が危うくなる。だから、拉致問題を言わなければならない日本の政治家の気持ちも理解してほしい。

 唯一の被爆国である私たち日本国民は北朝鮮の核保有を絶対に容認できない。けれども、核を持たなければ米国と渡り合っていけないという気持ちだけは理解する。お互い理解し合って、努力しながら話し合いをしようではないかとお願いしているのですがね。

(構成/本誌・亀井洋志)

金丸信吾(かねまる・しんご)/1945年、山梨県生まれ。青山学院大学卒。境川カントリー倶楽部代表。父・金丸信氏の秘書を務め、90年の自民党代表団初訪朝に同行。以来、今日まで訪朝を重ね、北朝鮮要人と交流がある

孫崎享(まごさき・うける)/1943年、旧満州生まれ。元外交官。東京大学法学部中退後、外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、防衛大学校人文社会学群教授などを歴任。『朝鮮戦争の正体』など著書多数

木村三浩(きむら・みつひろ)/1956年、東京都生まれ。民族派団体「一水会」代表。慶応義塾大学法学部卒。月刊「レコンキスタ」発行人。著書に『対米自立』など

>>【後編/金丸元副総理の次男 北朝鮮と交流し続けるも「民間人の外交に限界」】へ続く

週刊朝日  2021年8月6日号より抜粋