横尾:矢崎さんの考えるネガティブな部分は僕は全然知らないけど、こうしてしゃべることで浄化されていくんじゃないの。

矢崎:今日会えて僕は嬉しかった。横尾ちゃんもワガママだけど、誠ちゃんのワガママとはちょっと質が違うんですよね。でも、話せたし、本も出したし、もう心おきなく死ねるんですよ。

横尾:僕は和田くんとの付き合いは矢崎さんより濃密で、出会ったときから亡くなるちょっと前までベタベタしないで密に付き合いをしてたんです。

矢崎:当時の仲間はみんな仲よかったね。横尾ちゃんは唯我独尊。でも、なんかいつも横尾ちゃんがいる。横尾ちゃんの存在感はすごくあったね。でもいるのかいないんだかわかんない、不思議な存在なんですね。

横尾:周囲が僕と関係のない話ばっかりで盛り上がっているから、僕は入りようがないから黙っているわけ。だから、しらけた存在に見えるんですよ。土方巽さんとか、澁澤(龍彦)さんとか、みんなが集まるところへ行ってもね、その輪の中に僕は入れないんですよ。彼は何を考えているんだろうと、澁澤さんたちが言っていたらしい。

矢崎:横尾ちゃんも一緒に高知へ行ったよね。そこで横尾ちゃんはお化けの話ばっかりして、映画監督の中平康と一緒に。あのときに堤清二も一緒だったね。中平が映画を撮るとき、横尾ちゃんにアートディレクターを頼むんですよ。それで横尾ちゃんが引き受けるわけですよ。でも、ちゃんとやらなくて俺のとこに苦情が来るわけよ。あのとき、堤さんが西武百貨店で展覧会をやるってポスターをつくった。

横尾:その部分しか覚えていない。

矢崎:覚えていたいことだけ覚えてればね、僕も幸せなのよ。

横尾:僕はいつも何を見てもどうもしらけてるような気がする。一種のアウトサイダーなんだね。

矢崎:でも結構笑い転げてたよ。笑って笑って、もう笑いすぎるぐらい笑ったりはしてたんだよ。

横尾:サービスしていただけさ。

矢崎:記憶はあるんだな。

横尾:ぼやっとね。こういうふうに話をされて、それで高知に行ったとか、そのとき矢崎さんがいたとか、誰がいたかを覚えてない。今話聞いてるとだんだん見えてくるわけ。

矢崎:記憶力が良すぎてね、不幸なんですよね。

横尾:矢崎さん見てるとね、僕の個人史の何ページかを今日全部埋めてくれた感じがするね。それを僕自身が感心してるわけ。そんなことがあったのか、そういう自分がいたのかって。

矢崎:そりゃ嬉しいな、ちょっとの瞬間だけ覚えててくれても嬉しい話だったな。でも、横尾ちゃん大人になったね。

横尾:永遠に大人になりたくない症候群でいたいよね、ピーターパンみたいに。僕も86歳ですよ。

矢崎:俺も89だからね。

(構成/本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2022年12月9日号