横尾:僕よりも和田くんが矢崎さんを大事にしててね。

矢崎:だから、今日こうして会ってもらっただけでも嬉しいよ。

横尾:年上の方なんだから、尊敬して付き合わなきゃいけないんだけどね、見た目はこんな感じだけどね、非常に人懐っこいですよ。仕事は信用はできないんだけども、人間が信用できた。だから僕はずっと付き合ってきた感じだな。矢崎さんは人徳と悪徳が混じり合っている人、だから面白い。

矢崎:横尾ちゃん、展覧会やったでしょ。東京都現代美術館で寂聴も来ているのに、ほったらかして、僕を構ってくれる。あちこち引っ張って、案内してくれたの。横尾ちゃんどうしちゃったのかなって。覚えてます?

横尾:覚えてない。

矢崎:覚えてないでしょ。だけど、そういうところも面白いんだけどね。こんな親切にされていいのかっていうぐらい親切だったのを、横尾ちゃんはてんで覚えちゃいない。そんなこと気まぐれに違いないんだから。

横尾:瀬戸内さんにはよく会ってたけど、矢崎さんは久しぶりなので珍しかったんだよね。

矢崎:高橋睦郎という詩人と「話の特集」で連載してたよね。すごくよかった。表紙とは全然違う。横尾ちゃんのページはすごい人気はあった。三島由紀夫が切腹するずっと前に切腹させちゃったりしてたね。見るだけで気持ち悪いやな。

横尾:人物戯論だけをまとめて本にしたいわけ。三島さんがまだ切腹してなかったけれど、腸が飛び出す代わりに、1万円札がぐわーっと部屋中飛び出している、そういうの描いてたね。

矢崎:三島さんが「話の特集」に興味を持ってくれたね。創刊号の横尾ちゃんの絵を見て、すごい本だって言ってくれた。

横尾:矢崎さんが事細かく昔のことを正確に語るから、びっくり。記憶力のいい人だなと思って感心しているんですよね。

矢崎:それは不幸なところもありますよ。記憶力が良すぎてね。つまんないことも覚えているわけ。いいことばかりじゃないんですよ、嫌なことを忘れない。ひどい目にあったとか、意地悪されたとか、恥をかいたとか覚えていて嫌ですよ。

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