「話の特集」の名作を再録。ハモニカブックス刊
「話の特集」の名作を再録。ハモニカブックス刊

横尾:「話の特集」は軌道に乗りだしたから、魅力がなくなってきたの。潰れるか、潰れないかというときが一番エネルギーあるんだけど、軌道に乗ったら興味がなくなっちゃった。

矢崎:そんなこと言いながらずっと参加してた。

横尾:それは和田くんの手前があるからね。

矢崎:俺のこと馬鹿にしてたよね、最初から。何もわからない男だって。誠ちゃんのことは信頼していたけど。それでもずいぶん長く付き合ったよね。

横尾:矢崎さんは僕のこと変わっているって言うけどね、矢崎さんこそ最初会ったとき、えたいが知れない人だったんですよ。事件屋か、トップ屋みたいなことやっている人だと思ってたの。和田くんから聞くと、矢崎さんっていうのは何も知らないって。文化的なことを全然知らないっていう。

矢崎:いろいろあって辞めて、親父の会社に入った。神戸のサンテレビで横尾ちゃんと西脇(兵庫県の横尾さんの故郷)に行くわけ。そこに銭湯があって、そこの絵を見て、「僕はこの銭湯の絵を描いている」って、横尾ちゃんが言うわけ。でもそれは嘘だからね。

横尾:矢崎さんを喜ばすために言ったの。

矢崎:この風呂の絵を見てごらん。太陽、富士山があって波が立ってて、これ僕の絵だよって、嘘ですよ全部。

横尾:矢崎さんは絵のことわかんない人だから、だませるんだよ。

矢崎:僕も横尾ちゃんのことあんまり信用しないし、何考えてるのかよくわかんない(笑)。瀬戸内寂聴とか、共通の知り合いもいっぱいいるわけよ。横尾ちゃんはだいたいどんな人もあんまり信用してなかったね。

横尾:矢崎さんのことは信用しなかったけれど、信用できない人として、僕は信用してたよ。わかりやすい人だったから。

矢崎:徹底的に馬鹿にしてた。『夢の砦 二人でつくった雑誌「話の特集」』という本をつくって横尾ちゃんに送ったら、手紙が届いて、褒めてくれてるわけ、涙が止まんなくなっちゃった。あんまり嬉しくてね。いい本つくったねって言ってくれたことで、こんな嬉しかったことってないんですよ。それで、やっぱり横尾ちゃんが好きだったんだなってね。昔はあんまり好きじゃなかったんだけどね。

次のページ