また、開会式の演出の中でも特に話題になったのが、50個のピクトグラムを青と白の衣装を着た人たちが次々に再現するパフォーマンスである。

 この『仮装大賞』を思わせるピクトグラム寸劇に出演したのは、「が~まるちょば」のHIRO-PONと、パントマイムデュオ「GABEZ(ガベジ)」のMASAとhitoshiだった。パントマイムの達人である彼らが、高度な技術を駆使して圧巻のパフォーマンスを見せていた。

 公にされているわけではないが、これらの演出や彼らの人選には、開会直前までディレクターを務めていた小林賢太郎氏がかかわっていると思われる。小林氏はもともと芸人として活動していて、笑いに造詣が深い。外国人を相手にしてコメディ的な演出を行う上で、どういう人材が必要なのか、ということが深く考え抜かれているのが伝わってきた。

 度重なるトラブルでなかなか決まらなかった開会式の演出を引き受けるというのは、火中の栗を拾うようなものだ。組織委に対する国民の反発が強い中で、時間も予算も限られていて、どんなにベストを尽くしても「大成功」とは言われない可能性が高い。せいぜい「賛否両論」が関の山だろう(実際そうなった)。

 それでも、「彼」はその大役を引き受けた。誰かがやらなければいけない仕事だったからだ。音楽担当者の1人だった小山田圭吾氏が辞任をして、小林も解任された。最後までドタバタが続く中で開会式は行われた。

 式全体を通して見ると、これまでにもアートと笑いを巧みに融合してきた小林の意向が反映されていると思われるところが多く、お笑い好きとしても納得のできる内容だった。

 日本のお笑い文化は豊かな土壌を持っている。だが、その大半は日本の言葉や文化に依存する割合が大きいため、外国人には敷居が高い。なだぎ武や劇団ひとりを起用して、海外向けの笑いのあるべき姿を示した開会式は、もう少し評価されてもいいのではないか。(お笑い評論家・ラリー遠田)