7月23日、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で東京五輪の開会式が行われた。ディレクターを務めていた小林賢太郎氏が直前で解任されるなどの混乱の中で行われた開会式は、良くも悪くも国民の注目を集めることになり、NHKの生中継番組は高い視聴率を記録した。
開会式の内容に関して、世間では賛否両論の感想が飛び交っていた。個人的には、大会組織委員会の相次ぐ不祥事、度重なる担当者の辞任・解任劇、そしてコロナ禍という特殊かつ異常な状況の中で、ひとまず無事に開会式を行うことができただけでも御の字ではないかと思う。
細かい演出の是非よりも、お笑い好きという私の立場から見て特に印象に残ったのは、なだぎ武と劇団ひとりがこの舞台に登場していたことだった。数多くの芸人が存在する中で、なぜ彼らが選ばれたのか、それが意味するところは何だったのか、ということについて改めて考えたい。
なだぎ武は、開会式の舞台に登場して、テレビクルーの一員としてレポーター役を演じていた。緑色の派手な衣装に身を包み、キレの良い動きを見せていた。劇団ひとりはVTRに出演していた。オリンピック会場や東京の各所に光のスイッチを入れる仕事を行うスタッフを演じていた。
彼らはいずれも言葉を使わずに動きや表情だけでコミカルな雰囲気をかもし出していた。芸人としての彼らに共通するのは、「ザ・コメディアン」と呼びたくなるような抜群の身体能力を持っていることだ。
なだぎはピン芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり』で史上唯一の2連覇を果たしている実力者である。完璧に統制された動きや表情の面白さでは彼の右に出る者はいない。
また、劇団ひとりも、今でこそテレビタレントとしてのイメージも強いが、本来は演技派のピン芸人である。哀愁を感じさせる一人コントはクオリティが高く、イッセー尾形の一人芝居にも見劣りしない。
なだぎも劇団ひとりも、演技力を評価されて役者としてのオファーが絶えず、数多くの映画やドラマに出演している。世界中の人を対象にする開会式では、彼らのように言葉を使わずにコミカルなパフォーマンスができる人材が求められていたのだろう。