じーこさん。こんなことを書いてごめんなさい。でも、お母さんを陰謀論から抜け出させるためには、お母さんの不安や淋しさを丸ごと引き受ける必要があるだろうと僕は思っているのです。

 それがどれほど大変なことか。あらためて書くまでもないでしょう。じーこさんや弟たち、父親の人生全体が問われるのです。

 でも、陰謀論はそれぐらい手ごわい相手だと僕は思っているのです。

 できる限り、家族全体で母親の「不安と淋しさ」を分担して引き受けるという方法があるかもしれません。

 長電話をやめて、簡潔に対応するようにして、母親の変化を定期的に見るという方法もあるでしょう。「世間」を失うことで陰謀論から戻るのか。さらに進むのか。

 ちなみに、僕が対応できなかった別な友人は、最後の最後、カルト宗教が用意したイベントに参加する直前、踏みとどまりました。そのイベントは、友人の人生そのものを決めるイベントでした。彼女はカルト宗教と引き換えに、自分の「世間」をすべて失うことを拒否したのです。

 じーこさん。僕がアドバイスできるのはここまでです。じーこさんにはじーこさんの、弟たちには弟たちの、父には父の人生があると思います。その中で、どれだけの時間とエネルギーをお母さんに使えるかは、それぞれの人が決めることだと思っているからです。

 じーこさん。切なくて苦しくて本当につらい戦いだと思いますが、心から応援します。

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