渥美は、こう振り返る。
「(三塁手の)優さんが体に当ててでも止めようとしてくれて、それが自分のところにたまたま飛んできた。優さんの気持ちでもあるし、みんなで抑えようという気持ちが出たのかなと思います」
神がかったキャッチの後も、難しいプレーだった。渥美はすぐに体勢を立て直し、二塁にストライク送球。並の遊撃手ならボールをキャッチするだけで精いっぱいなはずだ。それが、わずか3歩のステップだけで次のプレーを正確にこなした。これに対する渥美の答えは意外なものだった。
「捕ったときは一瞬『あっ!』と頭が真っ白になった部分があったんですけど、その後にランナーが見えた。一瞬真っ白になっても、冷静さを取り戻せた」
この回を0点で守り切って勝利につなげた日本は、ソフトボール界に新たな金字塔を打ち立てた。
ただ、喜んでばかりはいられない。3年後のパリ大会では、ソフトボールは五輪の正式競技から外れる。そのことを記者から問われた渥美は、こう誓った。
「私たちが子供たちに夢を与えて、まだまだソフトボールというのは素晴らしい競技だということを伝えていけたらいいかなと思う」
(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 2021年8月13日号