高齢者にとって、タンスの引き出しは深く重い。地震でタンスが倒れれば、命にもかかわる。洗濯の動線を見直すと同時に、「タンスにしまうのが億劫なら、使わない生活は思っている以上に楽だよ」と親に伝えてみるのも手だ。

【物を寄せる】
「ライフラインの確保」でも紹介した通り、使っていない物は「物置部屋」へ移動させる。重くて、老いた親では動かせない物については現時点では仕方ない。ワクチン接種後か、コロナ禍が落ち着いた時に帰省して、子ども世代が整理しよう。覚えておきたいのは、「親が今使っていない物=捨てていいもの」ではない、ということ。親に確認しながら整理しよう。

■ワクワクする空間に

【空間をつくる】
「リモート」では、物や家具の大規模な移動は難しい。家の中に1カ所でもいいので、ワクワクする空間を作ることを、親とオンラインや電話でコミュニケーションを取りながら考えてみよう。

「家族の写真や子どもが作った作品、家族旅行のお土産などがホコリまみれで置いてあることがよくあります。それらをきれいにし、家の中の目立つ場所に、空間をちゃんと作って陳列すると、ワクワクする空間になる。見るたびに嬉しくなり、『じゃあ、ほかもきれいにしよう』という気持ちにつながります」

 ある高齢女性のケースでは、女性が長年集めてきた高級コーヒーカップを一つ一つ丁寧に磨き、食器棚のガラスも磨き、選りすぐりのコーヒーカップを絵柄が見えるようにきれいに陳列し、コレクションスペースを作った。高齢になると積み重ねた食器は取りづらくなるが、アクリル棚を入れ、カップを取り出しやすく工夫。喫茶店を開くのが夢だった女性は感激。大好きなコーヒーカップを眺めながらリビングでくつろぐようになり、ほかの部屋は多少汚れていても、リビングだけはいつもきれいに掃除するようになった。

【いつも使うものは出しておく】
 タンスを処分して「ざっくりボックス」に下着、靴下、パンツを入れるようになった男性のように、よく使うものはしまい込まず出しておくことで、俄然、生活が楽になる。

「見栄えよりも使い勝手。出しっぱなしにするから散らかるという人がいますが、それは逆です。経験上、いつも使う物をいちいちしまうのが面倒だから、散らかるんです」

 そうした場合、収納の扉をあえて取り去るのも手だ。たとえば食器棚のガラス扉を部分的に外し、毎日使う茶碗セットやお茶セット、調味料セットをトレーにのせて置いておけば、すぐにトレーごと必要な物を取り出すことができ、使い終わればトレーごと戻すことができる。

 5ステップをすべてクリアした後、物置部屋や収納スペースはどうすればいいのか。

「外から見えない収納なら、極端な話、散らかっていてもいい。高齢者の家の片付けは、便利さ、安全、暮らしやすさが優先です」

 もう、「整然としている」「生活感がない」に縛られなくていい。暮らしやすいが一番だ。(ライター・羽根田真智)

AERA 2021年8月9日号より抜粋

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