古賀茂明氏
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菅義偉首相(C)朝日新聞社
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 予想通り五輪フィーバーが巻き起こった。ニュースが五輪、五輪で埋め尽くされる。そんな中、先週号でも言及した映画『パンケーキを毒見する』が劇場公開された。実は、この公開は、「無謀な試み」と言われていた。その理由はいくつもある。

【写真】無謀な試み?この人の胸中は…

 この映画は、時の総理菅義偉氏の素顔を描くドキュメンタリーだが、現職総理のドキュメンタリーを商業映画として公開するのは極めて異例だ。そもそも政治ドキュメンタリーで儲かることは滅多にない。しかも、最近は大手メディアが政権忖度を強めており、この手の映画は、内容がどんなに面白くても、大手新聞やテレビで取り上げられることはない。この秋に衆議院選挙が予定されているので、メディアはますます委縮しており、テレビCMを出すのも難しい。つまり、新聞・テレビでの露出ゼロでのスタートを強いられるのだ。

 さらに、今回は、コロナの感染拡大で東京の緊急事態宣言などと重なる。観客数が制限され、「不要不急」の映画鑑賞のための移動は自粛となる。しかも、公開初日の7月30日は、東京五輪真っただ中。人々は、ステイホームと言われても、五輪競技の中継や関連番組が常時みられる。政治ドキュメントが好きな高齢者層は、1964年東京五輪を体験し、五輪に関心が高い。「パンケーキ」と五輪はもろに競合するのだ。

 しかし、それでもなお、「パンケーキ」は、いきなり新宿ピカデリーなどの大規模施設での公開となった。私は、当初からこの映画の企画に携わっていたが、河村光庸(みつのぶ)プロデューサーは、昨年9月の発案段階から「新宿ピカデリーで公開」と断言していた。その時は、私でさえ半信半疑だった。ちなみに、河村氏は映画「新聞記者」、「i-新聞記者ドキュメント-」の生みの親としても有名だ。

 さて、公開初日の様子はと言えば、予想外の大反響だった。大きな映画館で完売が続出し、学生や20代の社会人も結構目に付く。先日は、私の親戚の社会人1年生の若者からラインで、「見たよ。面白かった」という連絡が入り驚いた。メディアで全く報じられないのになぜ知ったかと尋ねたら、「キノ・イグルー」という移動映画館を主宰する有坂塁氏のインスタグラムで知ったという。彼女と友人の感想は、「私たちって、この映画の羊なんだね」と「すごく汚いことが、私たちが知らないところで起きている」ということ。

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