――新谷さんは週刊文春のデジタル化を進められましたが、月刊文藝春秋のデジタル戦略はどうお考えなのでしょうか?
新谷:月刊文藝春秋は元々、noteと組んでデジタルを展開してきたが、正直言ってそんなに大きなビジネスにはなかなかなり得ず、note会員と、文藝春秋のコア読者の食い合わせが必ずしも良いとは言えない状況です。今まで文藝春秋の存在を知らなかった読者にリーチできるメリットはあるけど、マネタイズが極めて難しい。新たな月刊文藝春秋の稼げるDXは考えなければと思っています。ただ、週刊文春とはかなり違うゴールに最終的にはなってくるだろうなと。
週刊文春はやっぱり量の勝負でした。何億PV(ページビュー)とか、完売など数を求める方向性がメディアの特性と思います。文春オンラインというプラットフォームを得たことによって、週刊文春のスクープ、スキャンダルをインターネットやSNS上に拡散させ、PVと雑誌の売り上げを増やしてくというビジネスモデルは、ものすごくうまくいったわけですよ。スクープ、特に芸能スキャンダルとデジタルの親和性が高くて、それによって週刊文春も文春オンラインも共に成長していく理想的な展開があったと思います。文春オンラインは今年6月に、月間の自社PVは4億3千万を超え、5億は完全に射程圏に入っています。
しかし、その方法論が月刊文藝春秋にそのまま当てはまるかと言うと、そこは違うと思うんですよ。月刊文藝春秋もスクープはあるけれど、それをオンラインに載せ、ヤフトピに上がって爆発的に売り上げを稼げるかというと、週刊文春とは違うと思うんですね。PVはPVで裾野を広げる意味でしっかり取りに行くことは大事。しかし、そこは月刊文藝春秋の究極的なゴールじゃない。高い問題意識を持った読者が集まるサロンやサブスクを作っていけないか、と考えています。
――サブスクというと、週刊文春電子版もありますね。
新谷:週刊文春の電子版もあるし、同じような方向で月刊文藝春秋の電子版というのも当然あり得ると思う。ただ、紙の月刊文藝春秋と同じものが、デジタル版でも読めますというだけだと厳しいと思う。わかりやすいイメージで言うと、大人版のNewsPicksみたいな言論空間、オンラインサロン的な場所を作ってそこに政権の中枢、霞ヶ関の中枢の人にも出てもらい、オンライン対談とか座談会みたいなことを将来的にできないだろうかと考えています。有料会員はライブで見られ、質疑応答に参加できるとか、質の高い言論空間をオンラインサロン的に構築できないだろうかと考えています。
そう簡単じゃないのはわかるけど、文藝春秋の大きな強みのひとつは、いろんな世界の第一人者の方々に出てもらえるところです。そうした創刊100年の伝統の力を活かして、価値の高い発信、発言を紙の月刊文藝春秋に落とし込むだけではなくて、デジタルでも展開できないかということです。ウェビナーみたいなこともやり始めているけど、手応えはあるわけです。今までとは違う若い読者がそこに入ってきてくれる可能性を感じています。