新谷:偉そうなこと言っているけど、デジタルは全然詳しくないし、本来は苦手なんですよ。ただ大きな方向はわかっているつもり。あとDXをどこまで進められるか、というのは、どんな組織でも究極的には社内政治です。私はそこで、嫌われても言うべきだと思うことを言っているだけです。

――御社は雑誌媒体の収益はまだまだ高いでしょうから、DXで垣根を超えていくのは、やはりハードルがあるでしょう。

新谷:だからやらなくていいという話ではない。むしろ雑誌に体力が残っているうちにやらないとダメです。紙が売れなくなったので慌ててDXと言い出しても無理なんですよ。今でも相当遅い。文春オンラインが週刊文春編集局に入ったのは2019年ですが、タイミング的にスレスレで間に合ったと思っています。当時、文春オンラインは月間の自社PVが5000万から6000万ぐらいでした。私は文春オンラインと週刊文春デジタルの両編集長の意向も踏まえて、文春オンラインを週刊文春編集局に入れて、効率よく連携させてPVを稼ぎたいと主張しました。ただ社内はほとんど反対だった。文春オンラインは社のプラットホームで週刊文春だけのものじゃないと。じゃあ、やめましょうと引き下がって、別々のセクションのままやっていたら、今とはまるで違う風景がひろがっていたと思います。

――出版社がDXで生き残るために何が大事でしょうか?

新谷:週刊文春時代もそうだったけど、デジタルにシフトして稼ぐ上で何が一番大事かというと、看板、つまりブランディングだと思います。「文春砲」という言い方は好きじゃないけど、その呼び方で世の中の人々にスクープといえば文春だよね、と浸透しました。デジタルシフトしてマネタイズする上ですごく大きな支えになっています。月刊文藝春秋もこれからスクープやインパクトのある記事をどんどん出して、存在感を増していくことで、やっぱり国民雑誌だよね、と改めて認識してもらえるようにしたい。これが私の一番やらなきゃいけないことです。紙もまだまだ売れると思うし、デジタルに舞台を変えて勝負する上でも、文藝春秋は最近、勢いがあるね、面白いねと思ってもらえることが一番大事なことだと思います。
(AERAdot.編集部 森下香枝)

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