原稿を校閲する校閲記者 (c)朝日新聞社
原稿を校閲する校閲記者 (c)朝日新聞社

前田安正(まえだ・やすまさ)/未來交創株式会社代表取締役/ビジョンクリエイター/文筆家。朝日新聞元校閲センター長/用語幹事。早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」「あのとき」など、十数年にわたり朝日新聞に漢字や日本語に関するコラム・エッセイを毎週連載。2019年コミュニケーション・ファクトリー未來交創株式会社を立ち上げ、わかりやすい文章の書き方や、コミュニケーションの楽しさを伝える仕事をしている。「文章の書き方・直し方」など、企業・自治体の広報文の研修に多数出講。テレビ・ラジオ・雑誌・ネットなどのメディアにも数多く登場している。メルマガ「前田安正のマジ文アカデミー」も配信している。未來交創HPはhttps://kotoba-design.jp 著書に、約10万部の『マジ文章書けないんだけど』(2017年・大和書房/19年・台湾で翻訳出版)を始め、『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(朝日文庫)、『使える!用字用語辞典』(共著・三省堂)など多数ある
前田安正(まえだ・やすまさ)/未來交創株式会社代表取締役/ビジョンクリエイター/文筆家。朝日新聞元校閲センター長/用語幹事。早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」「あのとき」など、十数年にわたり朝日新聞に漢字や日本語に関するコラム・エッセイを毎週連載。2019年コミュニケーション・ファクトリー未來交創株式会社を立ち上げ、わかりやすい文章の書き方や、コミュニケーションの楽しさを伝える仕事をしている。「文章の書き方・直し方」など、企業・自治体の広報文の研修に多数出講。テレビ・ラジオ・雑誌・ネットなどのメディアにも数多く登場している。メルマガ「前田安正のマジ文アカデミー」も配信している。未來交創HPはhttps://kotoba-design.jp 著書に、約10万部の『マジ文章書けないんだけど』(2017年・大和書房/19年・台湾で翻訳出版)を始め、『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(朝日文庫)、『使える!用字用語辞典』(共著・三省堂)など多数ある

「きちんと書いたはずなのに、うまく相手に伝わらない」という経験はないだろうか。わかりやすい文章の基本は、主語と述語をきちんと対応させることと、句点「。」をうまく使うこと。

【前田安正さんの写真とプロフィールはこちら】

 朝日新聞の校閲記者として活躍してきた前田安正氏が、読み手に伝わる文章を書くためのノウハウをまとめた『きっちり! 恥ずかしくない! 文章が書ける』(朝日文庫)。本書を基に前田氏が、誤解されず、正確に伝わる文章の書き方を解説する。

*  *  *

「ご不便をおかけしますが、健康・感染を守るため……」

 出先でこんな貼り紙を見かけた。これでは「感染を守る」ことになってしまう。

 Twitterでこういう内容の投稿を見かけました。

<健康は守る。でも感染は、防がなくてはいけない。>

 ことばを並列すると、往々にして一つのことばにだけ述語(述部)が掛かる傾向があります。上の例の場合は「健康・感染」と中黒(・)でつないでいるため、ワンワードとして捉えてしまったのかもしれません。そのため、「感染」より「健康」に意識が強く働いた「ことば」として認識され、「守る」という述語をつなげてしまったように思うのです。

「健康・感染」という部分を「健康や感染」という具合に、中黒(・)から「や」という並列の助詞に変えるとどうでしょう。

<健康・感染を守る>
<健康や感染を防ぐ>

 中黒(・)の場合と異なり、受ける述語が「守る」から「防ぐ」に変化します。これは、「や」という並列の助詞が入ったため「健康」と「感染」がそれぞれ独立した意味を持ち、「ワンワード」としての意識が薄らぐからです。そのため、後ろに置かれた「感染」ということばを受ける述語を強く引き寄せる傾向が出てくるのです。

「健康」と「感染」のことばを逆にするとどうなるでしょうか。

<感染・健康を守る>
<感染や健康を守る>

 それぞれが「守る」という述語を取って、一見すると文が成立しているように思えます。しかし、ことばを入れ替えたとしても「感染」ということばに付く述語がないままなのです。

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