04年の第2回大会に初参加した飯島さんも、「ロマン」に惹(ひ)かれたひとりだ。以来、TJARには6度出場。12年からは実行委員会代表も務める。
「海から山を越えて海へというコンセプトに共感しました。普通じゃやろうと思わないけれど、頑張ればそれができるかもしれない。実際に参加してみてさらにのめり込みました」
TJARは2年に1度の開催を続け、今回で10回目になる。完走者は延べ124人、18年には58歳のフィニッシャーも誕生した。女性はこれまでに4人(延べ8回)が完走。優勝経験者もいる。12年にNHKが密着取材したこともあって知名度は格段に上がり、今では30人の募集枠に100人を超える申し込みがある。応募には十分な登山経験のほかにフルマラソン3時間20分以内(または100キロマラソン10時間30分以内)といった厳しい条件がある。書類審査と選考会を行い、それでも30人に絞れない場合は抽選になるが、2大会連続で外れた人もいる。
■選手に自分を重ねる
応募者たちにとって、TJARの選手は等身大の自分を重ねられる「目標」だ。16年大会で史上初の「5日切り」(4日23時間52分)と大会4連覇を達成した望月将悟さんは、かつて、「たまたま」見かけたレース中の選手の姿に惹かれ、参戦を決めたという。
「真っ黒に日焼けして、疲れ切ってトボトボ歩いているだけなのに、その姿が『全力を出し尽くした』ことを表していてカッコよかった。猛烈に憧れました」
初参加した2010年、当時の大会記録で優勝したが、ゴール後には「もう少しやれた」との思いが止まらなくなった。
「レース中はものすごくつらかったのに、ゴールしてみたら『あそこはもう少し走れたんじゃないか』『睡眠を削ってもよかったんじゃないか』とやり残した感じが大きかった。それを突き詰めるのがやりがいで、TJARは常に自分の『目標』でした」
望月さんが参加者に自分を重ね合わせ、その姿に憧れて参戦を決めたように、望月さんや今の参加者たちに憧れて新たに出場を目指す人が大勢いる。望月さんは登山界、トレイルランニング界で広く知られた人物だが、本職は静岡市消防局千代田消防署所属の消防士だ。山岳救助隊員も兼ねているので「山のプロ」ではあるが、プロのランナーではない。ほかの参加者の多くも、登山やスポーツとは別の世界で働いて生計を立てている。そんな「普通の人」だからこそ、身近な憧れになりうるのだろう。飯島さんは言う。