■懐かしいテクスチャー

 私自身、疲れすぎて何かを読んだりする気力もないけど、何も見ていないと思考が空転してしまって、ああでもない、こうでもないと考えて余計にくたびれてしまう。そんな時に、ただただ眺めていられるものが欲しかった。

 連載スタートのタイミングで鎌倉に引っ越しをしたのも大きかったのかもしれませんが、そういうところから始まったオチビサンの世界だったので、本のほうも使用する紙質はすべすべしすぎないものを選んで、テクスチャーが懐かしい、触っていたい感じがする、っていうことにこだわりました。もちろんデジタルで読んでいただくのもとても嬉しいんですけど、紙でずっと読んでいただいている読者のためにも、紙の本を読むという時間に、「まとまった癒やされ感」みたいなものが出ることを大事にしています。

 まったくの偶然ですが連載が終了して間もなく、世界を新型コロナウイルスの恐怖が襲いました。テレワークが中心になり、一つの部屋に人が集まって作業をするのは難しくなりました。この状況だったら、オチビサンの細かな作業はできなかったのではないかなと思います。

 コロナ禍になって社会全体が混乱はしたものの、一回立ち止まったという感じがあると思うんです。これは業種にもよりますが、別にみんなで必死に満員電車で会社に行かなくても仕事回るじゃんっていうことに気がついた人も多いと思います。

 例えば、毎日会社に通勤していたころは枯らしてしまっていた植木などを育てることができたという人もいます。家にいればちょっと元気がないなとかもすぐに気づいてあげることができますからね。そういう意味では、今までと違った部分に少しずつだけど目をやれるように、社会全体がなっていってるのではないかと思うんです。

■エヴァチームも好き

 ホームページではオチビサンのショートムービーが見られるのですが、実はあれってすごい豪華で、エヴァンゲリオンのCGチームの人たちが作ってくれたんです。社長(庵野秀明氏)の奥さんだからやってくれているというわけではなくて、本当にオチビサンを好きでやってくれているんですよね。私がまったく知らない間に作っていて。「動きとか、こんな感じです」って、まだ線画だけの仮の状態のものを見せてもらったときに、驚いたんです。マンガにはかくれんぼしているシーンはないんですよ。こんなオチビサン、はじめて見たって思いました。ショートムービーの最後には「またね.」の文字。うれしいですよね。書籍は完結しましたが、オチビサンはいろんなところにい続けてくれるんだなって思います。

 そういえば、オチビサンには意外なファンがいるんです。それは、小学生男子、特に低学年の子です。鎌倉に住んでいたころは、毎年ギャラリーで展覧会をさせていただいていたのですが、そこに毎年なぜか小学1年生の男の子が来るんですよ。それがおんなじ子じゃないんです。毎年来るのが別の小学1年生(笑)。一緒に来たお母さんやおばあちゃんが、「せがまれて連れてきたんですよ」というようなことを言ってくださって。

 虫とかが描かれていたからでしょうか。まったくもって謎現象なんですが、うれしかったですね。その男の子たちを見て私は「あなたがオチビサンなんじゃないの?」って思ったりしていたんですけどね。ああいう子たちが大きくなった時に「オチビサンで何かしたい!」って言ってこないかなって思っています(笑)。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2021年8月16日-8月23日合併号

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