そんな北海道の仕事は今はかないません。今年はコロナ禍だし、大人しく行動。旭川独演会の翌日、帰りの飛行機までの時間に常磐公園を散歩してると、道立美術館で江口寿史先生の美女画を集めた「彼女」展が開催中。ふらりと入ると、くたびれたおじさんを美しい女性たちが迎えてくれました。「ストップ!! ひばりくん!」のひばりくんの前で癒やされながらしばし茫然と立ち尽くしていると、中学の美術部のグループがマスク越しに感嘆の声を上げています。「すごいねえ~」「綺麗だねえ~」。私も思わず「ねぇ~」と言葉尻を合わせると男子が「はぃ~」と返してくれました。同じモノに魅了されていると、マスクをしてるのも手伝ってか少しだけ垣根がなくなるような気がします。
2時間ほど美女に浸って、地元の名店・生姜ラーメン「みづの」へ。美味え。冬に食べたら身体の芯から温まるだろうなぁ。「いち、のすけ、師匠ですか?」と女将さんに声をかけられ「はい、はずかしながら」と色紙にサインを書かせて頂きました。恐れ入ります。スープを飲み干し、汗を拭き拭き外へ出ると32度。
15年経って私の仕事のスタイルも変わってきたけど、北海道は度々行きたい場所です。「みづの」さんは15年前とちっとも変わらずでございました。またうかがいます。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中
※週刊朝日 2021年9月3日号