写真集のタイトルは『晴れた日』。

 出来事は突然起こる。「楽しいことばかりじゃない。心に傷を与えるものも」

 ジョンとヨーコを撮った3カ月後ジョンは凶弾に倒れ、紀信さんの写真が最後に。音楽を愛する誰もが美しいと思う『ダブル・ファンタジー』のジャケットが残された。

 紀信さんが初めて写真を撮ったのは小学生の時。「どの家にもカメラが一台はある。近所に東南アジアの学生寮があってね。シェパードを飼っているベトナム人がいた。その犬を撮ってお小遣いでキャビネ判にして渡したんだ。その人が僕の写真を『上手いね、素晴らしい!』『ステキだね』『何という才能だ!』」

 褒められて嬉しかった。写真っていいなと思った。気持ちはずっと変わらない。

「女優さんは綺麗に、建築物は立派に、動物は愛らしく。見る人にもいいなと思われたい」

「毎日が『晴れた日』だった」と紀信さんは60年を振り返った。「次の展覧会が楽しみだ」

 その言葉を聴いて、今回の回顧展のタイトル「新・晴れた日」にある「新」という文字が僕の心にキラキラと輝いた。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年9月3日号

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