2020年の熊本豪雨で、熊本県人吉市の女性の平屋住宅に濁流が押し寄せた。女性は愛犬とともに7時間も庭の木につかまって助かった(photo 熊本学園大学・高林秀明教授提供)
2020年の熊本豪雨で、熊本県人吉市の女性の平屋住宅に濁流が押し寄せた。女性は愛犬とともに7時間も庭の木につかまって助かった(photo 熊本学園大学・高林秀明教授提供)
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 地震や豪雨など災害にあったとき、どんな公的支援を受けられるか。生活再建のため資金数百万円などが支給される場合がある。だが、制度には意外な落とし穴もある。2022年11月28日号の記事を紹介する。

【図解】全壊、半壊など、被害認定の目安はこちら

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 あと4センチ。わずかな差で、給付される金額が100万円以上も下回った──。 

 67人が亡くなった2020年の本豪雨で被災した女性のことだ。支援した熊本学園大学の高林秀明教授によると、状況は次のようになる。 

 熊本県人吉市で河川が氾濫(はんらん)。女性の木造住宅は泥だらけとなった。家具はひっくり返り、家の中で「山」を作った。 

 住宅が被災したとき、公的支援を受けたり保険金の請求をしたりするために「罹災(りさい)証明書」の申請が必要だ。申請を受けた市町村が、被災した家屋の被害を「1次調査」する。そして、被害の程度に応じて「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」の区分に判定する。 

■市役所と1年も交渉 

 女性も申請。後日受け取った罹災証明書には「大規模半壊」と書かれていた。近くの住宅は全壊なのに、どうして女性の住宅は全壊ではないのだろう。市役所に詳細を尋ねると、女性の住宅は浸水した深さが176センチだったと伝えられた。 

 内閣府の指針では水災の場合、木造住宅は浸水180センチ以上で全壊と判断される。全壊に4センチ足りなかったのだ。 

 ただ、これは簡易的に屋外から調べた「1次調査」の結果。納得できなければ、屋内を詳しく見る「2次調査」を求めることができる。女性は2次、3次と再調査を受けた。だが、判定は変わらなかった。市役所との交渉は1年にもわたった。 

 全壊か大規模半壊か。この違いが意味するのは、支給される金額の差だ。全壊・半壊などの被害の程度に応じて、国と都道府県からの「被災者生活再建支援金」の支給額が変わる。被災者生活再建支援金は、被害の程度に応じてすぐ支給される「基礎支援金」に加えて、住まいの再建方法によって支給額が異なる「加算支援金」がある。 

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