続く王位戦。藤井は豊島に初戦で敗れたあと、一気呵成(かせい)に4連勝をあげた。

「競(せ)ったスコアにできなかったので、楽しみにしてくださっていた方に申し訳なく思っています」

 豊島はそう語っていた。

 内容を見れば、現代最高峰の対局者によるきわどい戦いが続いた。しかしこうして夏が終わり、トータルで振り返ってみれば、結果として残ったのは、大天才藤井、圧巻のダブル防衛だった。

 それでも藤井からはおごりや慢心などは全く感じられない。

「渡辺名人、豊島竜王という、本当にトップのお二人に番勝負で対戦するという機会を得ることができて。その中で自分に足りないところが新たに見つかったという部分もあるので、それをまた生かせていければな、というふうに思っています」

 すでにこれだけ強いのに、まだまだ強くなるつもりなのだ。

「21年度の将棋界も、藤井君を中心に回っていくのは間違いないでしょう」

 AERA本誌のインタビューで、渡辺はそう語っていた。(ライター・松本博文)

AERA 2021年9月6日号より抜粋

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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