朝井リョウ (撮影/小黒冴夏)
朝井リョウ (撮影/小黒冴夏)

 10周年記念作品のひとつとして今年、『正欲』を刊行した作家の朝井リョウさん。ご自身は普段、あまり欲のない生活をしているようで……。華やかなベテランの林真理子さんと、多くを求めない若者の空気を代弁する朝井さん、世代の違う作家のやりとりをお楽しみください。

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林:朝井さんは『桐島、部活やめるってよ』(2009年)でデビューして、直木賞(『何者』)が8年前でしたっけ。

朝井:はい、そうです。2013年にいただきました。その節は大変お世話になりました。

林:そして今回『正欲』がすごい話題になっていますけど、私、これを読ませていただいて、いろんなことが腑に落ちましたよ。私、最近「多様性」という言葉がイヤだなと思っていたんだけど、その違和感を朝井さんが見事に解き明かしてくれて。

朝井:「多様性」に対してどう振る舞うかというスタンスを、誰かが決められるものではないと思うんです。「多様性」は世の中にもともとあるもので、そこにあとから生まれ落ちたのが人間。だから「受け入れる」という言葉も変だし、もちろん拒否するのも変。「操縦できるものじゃない」っていう感覚が出た作品だと思います。

林:『正欲』では、私たちの世代が感じるモヤッとしたものを、登場する若い人たちも同じように持っていて、彼らの会話によって見えてくるものがいっぱいあるから、若い人はもちろん、私たちの世代、週刊朝日の読者こそこの本を読んでほしいなとつくづく思いました。いい本を書いてくれてありがとうございました。

朝井:とんでもないです。そんなふうに言っていただいて、すごくうれしいです。

林:こんなこと言うとなんだか偉そうだけど、朝井さん、すごく腕を上げられましたね。文章うまいですよ。

朝井:本当ですか! 感激です。

林:これだけ登場人物が何人も出てくると、途中で退屈されてしまったら終わりなんですけど、次々とうまく重なり合っていて、文章のリズムなんかは天性のものですね。

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