林:朝日新聞の週末版に載ってた作家の食のエッセー(「作家の口福」)を読むと、若い作家って、みんな昼間自分でパスタをゆでるんですよね(笑)。
朝井:(爆笑)。「昼間にパスタをゆでる」というフレーズ、休日でも外出しない感じとか、自炊をしてもこだわるよりは時短で済ませる感じとか、そういう我々世代を包む大きな空気を短い言葉でバシッと言い当てていて、俳句のような言葉だなと思ったんです。私たちの世代の、この多くを求めない欲望の形というのは、もともと搭載されていたものなのか、生まれた時代や環境の中で形づくられてきたのか、どっちなんだろうと思います。もちろん同世代にも、すべてを手にしたいというタイプの人はいらっしゃるので。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
朝井リョウ(あさい・りょう)/1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。小説に、『世にも奇妙な君物語』『何様』『発注いただきました!』『スター』など、エッセーに『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』。自身の作家生活10周年記念作品のひとつとして今春、『何者』以来、約8年半ぶりとなる書き下ろし長編小説『正欲』(新潮社)を刊行。
※週刊朝日 2021年9月10日号より抜粋