女性は受験が終わるまでは娘にワクチン接種はさせられないと考えている。そうなると、気になり始めたのが「ワクチン格差」だ。同じ不安をもつ保護者は他にもいるはずなのに、「12歳の壁」は話題に上っていない。女性には「解決策が見つからなくても、せめて不安を共有したい」との思いがある。

「同級生は打てるのに自分は打てないと、受験日が近づくにつれ娘も不安になるのでは、と懸念しています。受験生は平等であってほしいのですが、ワクチン接種という条件面では格差が生じてしまいます」(女性)

■年齢でなく個別に判断

 とはいえ、そもそも子どもの重症化リスクは低い。子ども由来の家庭内感染も親のワクチン接種が進めば防ぐことができる。であれば、かかりつけ医などと相談の上、ワクチンを接種しない、という選択肢もあり得る、と前出の中野教授は言う。

 理由はこうだ。「小児」という集団は、新生児、乳児、幼児、学童、思春期世代と様々な特性で構成される。成長に伴って体格が大きくなるだけでなく、病原体やワクチンへの感受性や免疫応答も異なると推測されている。また、子どもは知的・心的成熟の度合いにより、予防接種の受容性や効果への期待、副反応の受け止めにも年齢差や個人差が大きい。さらに、基礎疾患の有無や種類によってもワクチンのリスクと恩恵は異なる。つまり子どもの場合、単純に年齢で区分せず、個別の特性を理解し、納得した上で接種の可否を判断すべき、というわけだ。

 打たない、打てない子どもは、どんな対策をとればいいのか。中野教授は現在流行しているRSウイルスを引き合いに、従来の感染予防対策の継続を呼び掛ける。RSウイルスは乳幼児にとっては新型コロナよりもはるかに重症化リスクが高い。しかし、大人は感染しても風邪程度の症状しか出ないため、周囲の大人や年長児が感染源となるケースがほとんどだという。

「新型コロナでは無症状患者の感染拡大が問題視されていますが、他の病気でも同じことが起きています。そう考えれば、ワクチン接種の有無にかかわらず、基本的な飛沫・接触対策を社会の共通ルールとして定着させるのが賢明です」(中野教授)

(編集部・渡辺豪)

AERA 2021年9月6日号

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