菅氏は総理大臣ですから、本来なら3つのカードを行使できました。衆院を解散するというカード、人事権を行使するというカード、文句を言う自民党議員の公認を左右できるというカード。最強のカードを3つ持っていた。しかし、そのカードが使えないまま、追い込まれてしまった。

 自民党の若手や中堅議員は「菅さんじゃ選挙の顔になれない。衆院選に勝てない」と突き上げましたが、「勝てない、勝てない」というのは自民党の若手、中堅の甘えもあります。日頃の努力が足りないのを、人気のない菅氏のせいにしただけ。逆に言えば、安倍政権の時には選挙が楽で、たいして頑張らなくても当選できたんです。勝てないのは本当に菅氏が悪いのか。それを理由にしている若手だって言い訳なんですよ。

 新総裁の候補には、内閣の縛りがなくなって、河野太郎規制改革担当相や小泉環境相ら、閣僚が立候補する可能性が出てきます。石破茂元防衛相も、野田聖子幹事長代行も考えているでしょう。これまで名乗りを上げていた岸田氏、高市早苗前総務相もいる。

 総裁選が賑やかになればなるほど、実は自民党にとっては衆院選前の宣伝になる。告示が17日ですからまだ時間があります。ここから先1カ月はずーっと自民党総裁選モードに入り、まるで「自民党総裁選祭り」に突入するわけです。

 菅氏は総裁選に出ると言っておきながら急に辞め、安倍氏と同じで途中で「トンズラ」することになります。しかしそのおかげで総裁選が華やかになり、盛り上がることによって、自民党のV字回復をもくろんでいる。

「私も、私も」と手を上げても、総裁選でコロナ対策がちゃんと議論されなければ意味がありません。これまでの安倍氏や菅氏がやってきたコロナ対策はどこがダメで、何が間違いだったかということをきちんと総括できるのか。そうでなければ、国民は自民党が変わったとは思わないでしょう。(聞き手/AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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