東京五輪のチームフリールーティーンでは演技のテーマが「祭」だった日本代表 (c)朝日新聞社
東京五輪のチームフリールーティーンでは演技のテーマが「祭」だった日本代表 (c)朝日新聞社

 アーティスティックスイミング日本代表は東京五輪でデュエット・チーム共に4位に終わり、惜しくもメダルを逃した。競技名がシンクロナイズドスイミングだった時代から日本は表彰台の常連だったが、再び世界のトップに戻るには何が必要なのだろうか。

 井村雅代コーチと共に日本の黄金時代を作ったのは、金子正子元日本水泳連盟シンクロ委員長だ。金子氏は、自らが率いる東京シンクロクラブで中学1年生の頃から育ててきた小谷実可子を、1988年ソウル五輪でソロ3位に導いた(現在ソロは非五輪種目)。海外勢にも見劣りしないスタイルの持ち主だった小谷だが「その美しさでは戦えなかった」と金子氏は言う。小谷のライバルは、後に女優になったフランスの選手だったのだ。

「その選手に勝てる力といったら、テクニックしかないんですよ。やはりテクニックで上をいくようになった時に小谷にも自信が出て、次の段階に上がることもできた」

 大型の選手をそろえて東京五輪に臨んだ日本だが、体格だけでなく自信の源となる技術力をも兼ね備えた代表を育てるのは難しかったのかもしれない。

 選手が国際舞台で自信を持って演技するために技術力は不可欠であり、勝つための大前提だといえる。しかし一方で、技術力を前面に押し出す戦い方も現在の潮流に合った戦法とはいえない。“シンクロナイズドスイミング”が“アーティスティックスイミング”という名前に変わって初めて迎えた五輪である東京大会では、世界が新たな方向へと向かっていることが明らかになった。

「日本が技術を前面に出して狙ってきたものと違う、工夫して『あっ』といわせるような肉体を使った海外勢のパフォーマンス。それを目の当たりにして『やはり、技術力だけではない。これこそが“アーティスティックスイミング”という名前に変わった由来なのではないか』と思いました」

「より(芸術的に)深いものが入ってきていますよね。ピタッと技術を合わせて同調していたら点が出た、という時代とは全く違います。今までは動きを寸分たがわずに合わせてきましたが、それではもう感動させられなくなってきている。日本が今持っていない要素はたくさんある。次に日本がしかけていくためには何から崩していくのか、という判断が大切だと思うんですね」

次のページ
日本の選手に足らないものは…