水野美紀さん
水野美紀さん
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イラスト:唐橋充
イラスト:唐橋充

 42歳での電撃結婚。伝説の高齢出産から4年。母として、女優として、ますますパワーアップした水野美紀さんの連載「子育て女優の繁忙記『続・余力ゼロで生きてます』」。今回は、旅館にある予約看板と選挙ポスターから広がる妄想とふくらむ物語について。

【チビの広がる妄想とふくらむ物語は…唐橋充さんのイラストはこちら】



*  *  *
 昔、どこか地方の旅館に行った時のこと。

 旅館の入り口によくある「◯◯御一行様」という、その日宿泊する団体様の名前が並ぶ看板(?)があるのを皆さんも目にしたことがあると思うが、その中に一際目を引く団体の名前があった。

 それが

「小田島を働かせる会」御一行様

 というものである。

 立ち止まった。凝視した。いったん旅館の中を覗いた。妄想が膨らんだ。

 小田島を働かせる……。

 きっと働いていない小田島がいるのだ。

 それもかなり長い間働いていないのだろう。

 その当の小田島は御一行様に参加しているのか。

 それとも小田島を働かせたい人たちだけで、今後の作戦を練る集まりなのか。

 最初、誰かが言ったのだろう。

「小田島さん、最近ぜんぜん働いてないわね」

 そして誰かが働きかけたのだ。

「私が小田島さんに話して、働くように言ってみるわ」

 だけど、きっと小田島は首をたてに振らなかったのだろう。

「私がいくら話してもだめみたい。どうしたらいいかしら」
「困ったわね。1日家に篭ってちゃ体に毒よね。少し働いた方がきっといいのに」
「ちょっと喫茶店のママに話してみるわ。あそこは小田島さんの行きつけの店だから」
「それはいいわね、ちょっとお願いしてみましょうよ」

 で、二人は喫茶店に行ったのだろう。

「ちょっとお願いできないかしら?」
「だけど小田島さん、どうして働かなくなっちゃったのかしら」
「きっと、ペットロスが原因よ」
「小田島さんってペットを飼っていたの?」
「……さあ」
「でもきっとペットロスよ」
「そうね、そうとしか思えないわ」

 勝手にペットロスにされて、噂は広まったのだろう。

「小田島さんの話、聞いたよお。気の毒になあ」

 と、いろんな人が喫茶店に集まって来ては小田島のことを話すようになった。

「ちょっと、わしがこれから話してこよう」

 みんな、我こそはと、小田島を説得しに行ったにちがいない。

 そして、

「こんなに心配してやってるのに働く気配もない。けしからん」

 と、小田島の事情そっちのけで、

「こうなったら何が何でも我々の力で小田島くんを働かせよう」

 となる。

「どうだ、酒でも飲みながら作戦を練ろうじゃないか」
「どうせなら温泉宿にしましょうよ」
「それならゆっくり一泊して」
「それじゃ私が幹事をやるわ」

 こうしてあれよあれよと「小田島を働かせる会」御一行様が誕生したのだ。

 そうにちがいない。

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秋田で見た笑撃の選挙ポスターとは…?