もうひとつ、秋田に行った時に見た選挙ポスターも衝撃だった。

 苗字は忘れたが、名前に「ひとす」と書かれていた。

「ひとし」じゃなくて「ひとす」。

 立ち止まった。凝視した。妄想が広がった。

 東京から嫁いできた嫁は夫に言ったのだろう。

「赤ちゃんの名前だけど、ひとし、ってどうかしら」
「いいでねえか。ひとすか。うん。」
「ひとし、なんだけど」
「うん、だからひとすだべ。分かっとるよ。なあ。ばあちゃん」
「ああ。ひとすな」

 嫁は思ったのかもしれない。

「あら、『ひとし』ってつけたって、こっちじゃみんな『ひとす』って呼ぶことになるのね。それじゃ最初から『ひとす』って名前にすればこの子も混乱しないわ」

 こういう所から妄想は産まれて物語が膨らんでいく。

 そんな私は今、脚本、演出、出演の舞台のお稽古真っ只中だ。

 この、小田島を働かせる会から着想を得た、「小田島」という苗字の人ばかりが集まった団体も登場させている。

 人の事情にかまわずにおせっかいをやいてくる厄介な人たちである。

 この時期になると稽古中には脳味噌オーバーヒートで軽い頭痛は毎日だし、帰宅してベッドに入っても脳味噌ギンギンで全く寝付けないし、寝ようとしてもアイデアが降りて来て、また起き出してパソコンに向かったり。

「あー、いつもの稽古中のやつ、きたーー」という感じなのである。

 もうこれはこの状況をなんとか楽しむしかない。毎回こうなるのだから。

 初日までこの調子で走り続けるのである。

 どうか、無事に幕が開けて、みんなで産んだ作品がお客様のところに届きますように。

■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>日本テレビ系ドラマ「ボクの殺意が恋をした」に出演中(毎週日曜22:30~)。10月7日から新国立劇場 小劇場にて作・演出・主演を務める舞台『2つの「ヒ」キゲキ』を上演する。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル> http://www.ytv.co.jp/cinemalife/

【書籍『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』好評発売中】

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